萬葉集 高橋虫麻呂による浦島伝説の歌

萬葉集の浦島太郎の歌を紹介致します。
作品のサイズは、410㍉×230㍉
8枚のパネル仕立て!? になっています。


①春の日の 霞める時に 墨吉(すみのえ)の 岸に出でゐて 釣船の とをらふ見れば 古(いにしへ)の 事ぞ思ほゆる 水江(みづのえ)の 浦の島子が 堅魚(かつを)釣り 鯛(たひ)釣り矜(ほこ)り 七日まで 家にも来ずて 
(意味)
春の日の、霞がかかっている時に、墨吉の岸に出て腰を下ろし、釣船が波に揺れているのを見ていると、昔のことが思われてくる。水江の浦の島子が、かつお釣りや鯛釣りに夢中になり、何日も家に帰らず、


②海界(うなさか)を 過ぎて漕ぎ行くに 海若(わたつみ)の 神の女(をとめ)に たまさかに い漕ぎ向ひ 相とぶらひ こと成りしかば かき結び 常世に至り 海若の 神の宮の 内の重(へ)の妙(たへ)なる殿に 携はり 二人
(意味)
海の境を越えてなお漕ぎ進んでいくと、海の神の姫に偶然出会った。互いに求婚しあい、結婚を決めて約束をし、不老不死の国へ行き、海の神の宮殿の奥にあるすばらしい御殿に、二人で手を取り合って入り、

③二人) 入り居て 老いもせず 死にもせずして 永き世に ありけるものを 世の中の愚人(おろかひと)の 吾妹子(わぎもこ)に 告(の)りて語らく 須臾(しましく)は 家に帰りて 父母に 事も告(かた)らひ 明日のごと われは来なむと
(意味)
二人で)手を取り合って入り、
年も取らず、死にもしないで長い間暮らしていた。ところが、愚かな浦の島子が、いとしい妻に告げて、しばらくわが家に帰り、父母に事の次第を打ち明けて、すぐ明日にも戻ってこようと言った、

④言ば 妹が言へらく 常世辺(とこよへ)に また帰り来て 今のごと 逢はむとならば このくしげ 開くな勤(ゆめ)と そこらくに 堅めし言(こと)を 墨吉に 還り来(きた)りて 家見れど 家も見かねて 里見れど 
(意味)
妻は、この国にまたお帰りになって、今のように私に逢うとおっしゃるのでしたら、この櫛笥(くしげ)を絶対に開いてはなりませんと、堅く堅く約束して送り出した。
 浦の島子は墨吉に帰ってきて、我が家を捜したが見つからない、

⑤里も見かねて あやしみと そこに思はく 家ゆ出でて 三歳(みとせ)の間に 垣も無く 家滅(う)せめやと この箱を 開きて見てば もとの如(ごと) 家はあらむと 玉くしげ 
(意味)
里を捜しても見つからない、そこで思ったのは、家を出て三年しか経っていないのに、垣根も家もなくなるなどということがあろうか、この箱を開いてみたなら、元の通りわが家が現れるだろうと、玉櫛笥を少し明けてみた。

⑥少し開くに 白雲の 箱より出でて 常世辺に たなびきぬれば 立ち走り 叫び袖振り 反側(こいまろ)び 足ずりしつつ たちまちに 情(こころ)消失(けう)せぬ 若かりし 膚(はだ)も皺(しわ)みぬ 黒かりし 髪も白けぬ 
(意味)
すると、白い雲が箱の中から立ちのぼり、不老不死の国へたなびいて流れた。浦の島子は飛び上がって走り回り、叫んでは袖を振り、転げまわって地団太を踏んで嘆き悲しんでいるうち、急に気を失ってしまった。そして、若かった肌も皺だらけとなり、黒かった髪の毛も真っ白になってしまった。

⑦ゆなゆなは 気(いき)さへ絶えて 後(のち)つひに 命死にける 水江の 浦の島子が 家地(いへどころ)見ゆ
(意味)
その後に息まで絶えて、とうとう死んでしまった。その水江の浦の島子の家があった跡が見える。

⑧常世辺(とこよへ)に住むべきものを剣刀(つるぎたち)己(な)が心から鈍(おそ)やこの君
(意味)
不老不死の仙境に住んでいることができたのに、自分の心からとはいえ愚かであるよ、この人は・・・。

加納 石人の書

書家 加納 石人 東京生 1924.1.28〜2008.9.22 初めまして。加納朱美と申します。石人の次男の嫁です。 舅 石人、姑を見送りました。やっと落ち着いて、石人氏の作品達を我家に眠らせておくのは、もったいない事だと実感。思いきって、ホームページも始める事に致しました。

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